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東京地方裁判所 平成4年(ワ)22738号 判決 1994年4月22日

原告

吉野和夫

被告

佐々木雅和

ほか二名

主文

一  被告らは、原告に対し、各自金六五二〇万二七五六円及びこれに対する平成三年九月二四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、これを五分し、その三を原告の、その余を被告らの各負担とする。

四  この判決は、第一、二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金一億五四六〇万三三六九円及びこれに対する平成二年四月一三日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実及び証拠によつて容易に認定しうる事実

1  本件事故の発生

(一) 日時 平成二年四月一三日午前一〇時〇五分過ぎころ

(二) 場所 東京都千代田区東神田二丁目五番一五号先路上(いわゆる靖国通り、以下「本件道路」という。)

(三) 態様 被告佐々木雅和(以下「被告佐々木」という。)は、右道路を普通乗用自動車(以下「被告車」という。)を運転して走行中、東京都神田清掃事務所勤務の清掃作業員である原告が、ごみ収集作業を開始するためにごみ収集車の後ろへ回り、スライドカバーを開けようとしたところへ追突した。その結果、原告は、収集車と被告車の間に挟まれ、右大腿部高度滅創による右大腿部切断の傷害を負つた。

2  責任原因

(一) 被告佐々木は、被告車を運転中、左右前方を注視して進行すべき注意義務があるのに、これを怠つたため、原告に追突したから民法七〇九条に基づき、本件事故について損害賠償責任を負う。

(二) 被告廣河株式会社(本件事故当時の商号は、エヌ・ケイ・トレーデイング株式会社、以下「被告廣河」という。)は、本件事故当時、被告佐々木を雇用し、被告佐々木は被告廣河の業務のために被告車を運転中に本件事故を惹き起こしたから、民法七一五条に基づき、本件事故について損害賠償責任を負う。

(三) 被告日建通商株式会社(以下「被告日建」という。)は、本件事故当時、被告車を保有し、これを自己のために運行の用に供していたから自動車損害賠償保障法(以下「自賠法」という。)三条に基づき、本件事故について損害賠償責任を負う。

3  損害の填補

原告は、自動車損害賠償責任保険から一六五五万七八七八円を受領した。

二  争点

1  損害

原告は、<1>リハビリテーシヨン費用、<2>入院付添費、<3>入院雑費、<4>通院交通費、<5>家屋改造費、<6>車両購入費、<7>後遺障害による逸失利益、<8>慰謝料(傷害分及び後遺障害分)、<9>弁護士費用を請求しており、被告らは、その相当性ないし額を争う。

右のうち、被告廣河及び同日建は、後遺障害による逸失利益について、原告は、本件事故後も東京都清掃局に勤務を継続しており、収入の減少がないから逸失利益は、定年退職の歳である六〇歳までは発生せず、その後は、賃金センサスのうち、年齢に該当する男子労働者に関する年収額を基礎として算定すべきであると主張する。

2  過失相殺

(一) 被告廣河及び同日建の主張

原告は、事故当時、歩車道の区別ある本件道路の車道上でごみ収集作業をしていたものであるが、本件道路は、交通頻繁な場所である上、本件事故当時、雨模様で路面は滑りやすくなつていたのだから、原告は、作業に際し、付近の交通に十分注意するとともに、作業中であることが周囲から認識できるような表示をすべきであるのに、これらを怠つた過失があるから、三割の過失相殺をするのが相当である。

(二) 原告の主張

本件事故当時、ごみ収集車後部の左右の停止灯が黄色に点滅しており、右停止灯の間には「作業中」と赤色で書かれた表示版が設置されていたので、収集作業中であることは、周囲からよく認識できた。本件事故は、もつぱら、被告佐々木の前方不注視によつて惹き起こされたものである。

第三争点に対する判断

一  本件事故態様

1  証拠(乙八ないし二三、三〇、三一、原告本人尋問の結果)によれば、以下の事実が認められる。

(一) 被告佐々木は、被告車を運転し、雨が降つていた本件道路付近を九段方面から両国方面へ向かい時速約四〇キロメートルで進行していたところ、被告車助手席上の写真を鞄に納めるのに気をとられ、前方を見ないまま、被告車を時速約五〇キロメートルに加速して進行し、写真を鞄に納め終わつた後、約二五・八メートル先にごみ収集車を発見して、ブレーキをかけたが、間に合わず、原告に追突させた。

(二) 原告は、本件事故当時、ごみ収集の作業を開始するため、本件道路上に停車した収集車の後方にまわり、そのスライドカバーを開けようとしたところ被告車に追突されたものである。本件事故当時、収集車は、後部の左右についている黄色のランプを点滅させ、その間に設置された看板に「作業中」の赤色表示を点灯させていた。

2  本件事故当時の被告佐々木の進行方向の信号の表示に争いがあるものの、右信号の表示にかかわらず、被告佐々木が脇見をしながら、しかも被告車を時速約五〇キロメートルまで加速した前方不注視は明らかで、雨模様で、道路が滑りやすかつたことを考慮しても、その程度は極めて重いといわなければならない。他方、原告は、ごみ収集作業中であることが周囲から認識できるような状況のもとで作業をしていたことが前記認定から認められる。

以上によれば、本件事故は、もつぱら被告佐々木の過失により惹き起こされたものであり、原告には過失がなかつたものというべきである。

二  損害

1  リハビリテーシヨン費用 一七万五四〇〇円

(請求 同額)

証拠(甲五の一ないし三、原告)、前記認定の原告の受傷の程度及び弁論の全趣旨によれば、右のとおり認められる。

2  入院付添費 一七六万八五〇〇円

(請求 一九六万五〇〇〇円)

原告は、本件事故により前記のとおり重傷を負い、入院治療を余儀なくされたが、右の原告の受傷の程度、証拠(甲三)及び弁論の全趣旨によれば、近親者による入院付添いが三九三日間必要であり、一日あたりの付添費用としては四五〇〇円が相当と認められるから、本件事故と相当因果関係にある入院付添費は右のとおりとなる。

3  入院雑費 四七万一六〇〇円

(請求 同額)

前記のとおり、原告は三九三日間入院しており、弁論の全趣旨によれば、一日あたりの入院雑費としては一二〇〇円が相当と認められるから、入院雑費合計は、右のとおりとなる。

4  通院交通費 三三万三八三〇円

(請求 同額)

証拠(甲六、原告)及び弁論の全趣旨によれば、右のとおり認められる。

5  家屋改造費 二七八万二〇〇〇円

(請求 五六四万二〇〇〇円)

証拠(甲七の一、二、甲八、一五、乙二の一、二、乙三、原告)によれば、原告は、本件事故により、大腿部を切断して足が不自由になり、自宅二階での生活が困難になつたこと、浴室には手すりや浅い風呂桶が必要になつたことなどから、家屋を改造し、このために土間の改造費四八六万円、浴室改装費七八万二〇〇〇円を支出した事実が認められるが、土間の改造は実質的に、一部屋分の増築であり、この全体について本件事故と相当因果関係にあると認めることはできず、土間の改造費四八六万円のうち、せいぜい二〇〇万円について相当因果関係があるものというべきである。したがつて、家屋改造費については、二七八万二〇〇〇円となる。

6  車両購入費 認められない

(請求 二六三万六六二〇円)

証拠(甲九、一五、一六、乙四、原告)によれば、原告は、自動車の運転につき、本件事故によりノークラツチ式の自動車しか運転できなくなつたため、新車を購入した事実が認められるけれども、後に認定するとおり、原告の後遺障害を前提として逸失利益及び慰謝料を算定しているから、それ以外に、別途車両購入費用を認めることはできない。

7  後遺症による逸失利益 五二六二万九三〇四円

(請求 一億二四四三万六七九七円)

証拠(甲二、四、甲一一の三、甲一二の二、甲一三の二、一四、一五、原告)によれば、原告は、本件事故当時、四三歳で東京都清掃局でごみ収集作業に従事する公務員で、本件事故に遭わなければ六〇歳まで右勤務を継続できたこと、本件事故により前記のとおりの傷害を負い、右大腿部を切断し、自賠責保険においても右下肢を膝関節以上で失つたものと評価され、右症状は、平成四年一月三〇日に固定したこと、また、原告は、現在も右足に断端痛、幻肢痛、義足不適応などがあること、この結果、ごみ収集作業に従事することが不可能になり、慣れない事務職に転向することを余儀なくされたこと、通勤に多大な時間と苦痛を伴うようになつたこと、収入は、本件事故の前年である平成元年の年収が七三〇万六〇三六円で、本件事故後も目立つた減収はないものの、事務職に転向したため、従前支給されていた特別手当が得られなくなつたこと、さらに、痛みや通院のために勤務時間も短く、病気欠勤も多いことから、有給だけでは賄いきれないおそれがあること、このため今後分限免職の処分を受けるおそれもあることなどが認められる。

以上、原告の後遺障害の内容・程度、現在の稼働状況、原告の年齢等を総合すると、明らかな減収がないことのみをもつて被告主張のように六〇歳までは逸失利益がないということはできず、原告は、少なくとも症状固定の際の年齢である四五歳から稼働可能であつたと見込まれる六七歳まで、六〇パーセントの労働能力を喪失したものと認められ、右に相当する逸失利益を算定するに際しては、四五歳から東京都清掃局の定年退職年齢である六〇歳までは、本件事故の前年である平成元年の年収七三〇万六〇三六円(原告は、平成二年の推定年収を基礎とすべきである旨主張するけれども、蓋然性が認めることはできないので、採用しない。)、六一歳から六七歳までは、四二六万八八〇〇円(平成四年賃金センサス・男子労働者・学歴計・六〇歳ないし六四歳の平均年収額)をそれぞれ年収の基礎とすべきである。そこで、中間利息をライプニツツ方式(四五歳から六七歳までの二二年間に相当する係数は一三・一六三〇、四五歳から六〇歳までの一五年間に相当する係数は一〇・三七九六であるから、六一歳から六七歳までの係数は一三・一六三〇から一〇・三七九六を控除した二・七八三四である。)により控除して本件事故当時の逸失利益の現価を計算すると、次のとおりとなる(円未満切捨て)。

7,306,036×0.6×10.3796=45,500,238

4,268,800×0.6×2.7834=7,129,066

45,500,238+7,129,066=52,629,304

8  慰謝料 一七六〇万〇〇〇〇円

(請求 傷害分三五〇万円、後遺障害分二〇〇〇万円)

本件事故に遭つた際に被つた原告の苦痛、治療期間が平成四年一一月三〇日までの約二年七か月間におよび、入院日数が三九三日、実通院日数が五二日であること、さらに現在も通院を継続していること(原告)などを考慮すると、傷害慰謝料として三一〇万円が相当である。

また、前記のとおりの原告の後遺障害の内容・程度やそれによつて原告が強いられている多大の苦痛等その他の諸般の事情を総合考慮すると、後遺障害に対する慰謝料として一四五〇万円が相当である。

9  既払分 一六五五万七八七八円

右の金額は当事者間に争いがない。

10  合計

前記1ないし8の合計七五七六万〇六三四円から前記9の既払分を控除した残金は、五九二〇万二七五六円となる。

三  弁護士費用 六〇〇万〇〇〇〇円

四  合計 六五二〇万二七五六円

五  以上の次第で、原告の本訴請求は、右四記載の金額及びこれらに対する不法行為の日である平成二年四月一三日から支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文を、仮執行の宣言につき同法一九六条一項をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 松井千鶴子)

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